MASH-ROOMというブランドには、災害で失われた暮らしの一部をもう一度誰かの暮らしにつなぎ直したいという想いがあります。この文章では、ブランドの立ち上げから活動の根底にある価値観まで、MASH-ROOMを立ち上げた農家・野原健史の言葉をお届けします。
はじめまして。MASH-ROOMの野原健史です。
熊本で農業を営みながら暮らしていると、日々、畑から教わることがあります。いつも通りの種まきのタイミングで芽が出なかったり、春なのに台風のような強風が吹いたりと、天候や土の状態、季節のめぐりにこれまでと違うズレを感じることが増えました。自然の中で生きていると、こうした小さな違和感が積み重なり、じわじわとした危機感につながっていきます。さらに、災害ボランティアとして被災地に足を運ぶなかで、こうした変化はますます現実味を帯びてきました。
日本各地で発生している自然災害の被災地には、「災害ゴミ」と呼ばれる大量の木材があります。しかし、それらは本来、誰かの暮らしに長く寄り添ってきた大切な時間や記憶の一部です。燃やされる前に、もう一度誰かの手に渡り、新たな役割を見つけられたら——そんな想いが、MASH-ROOMの出発点となりました。
仲間のクリエイターたちと協力して、廃材に新たな命を吹き込み、家具として再生する。家具づくりを通じて、いま起きている変化や、私たちがこれから向かうべき場所について、感じてもらえるきっかけになればと思っています。
ブランド名の「MASH-ROOM」には、さまざまなモノ、場所、人をつなぎ合わせ、人の営みを少しでも前に進めていきたいという願いを込めました。傷があったって、節があったって、それが生きてきた時間ごと受け入れて、新しいかたちにつないでいきたいのです。
これまでMASH-ROOMは、仲間のお店やショールームの家具を製作するなど、身近な場所で活動してきました。そしていま、ようやく全国の皆さんに家具を手に取っていただける準備が整いました。使う人の暮らしに静かに寄り添えるような家具を届けられたら嬉しいです。
最終的には、家具づくりを通して未来をより良い方向に変えていけるブランドへと育てていきたいと思っています。
この世界は一回きり。
何を選ぶか、どう生きるかで、世界は少しずつ変わっていきます。
もし、僕たちの表現に共感していただけることがあれば、それ以上の喜びはありません。
野原健史(のはら・けんじ)
1971年生まれ。熊本で循環型オーガニック農業を実践する「のはら農研塾」を主宰。ゴミの最終処分場を営む家に生まれたからこそ挑戦できる農法は、人が捨てたものを循環させ、産業として上手に回る仕組みとして、業界内外から注目を集める。2021年には災害廃材でつくる家具ブランド「MASH ROOM」も立ち上げ、更に「循環」に力を注ぐ。